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7-5. 仮払金と仮受金

本節で説明する仮払金と仮受金は、実務上は重要ではありませんが試験ではよく出るので試験対策としてしっかり理解してください。なお、実務上の注意点があるので、すこし暴走気味に説明しますが、そこは飛ばしても仕訳だけは理解して下さい。

仮払金と仮受金とは

仮払金とは、お金をとりあえず払ったがその理由が不明な時に使います。例えば、社員が出張に行くので、10,000円渡したといったケースです。その10,000円は交通費にも使われるし、交際費にも使われます。また、ぴったり10,000円ちょうど使うわけではなく、余ったら返してもらいます。つまり使い道はその社員が出張から戻ってきて精算するまではわかりません。そうはいっても、金庫から実際に現金が10,000円出て言っているわけですから、仕訳しないわけにはいきません。そこで、仮払金を使うのです。貸方の現金は確定しているが、借方の費用がどうなるか分からないから仮払金という暫定的な勘定科目で処理するわけです。

他方、仮受金とは、当座預金にいくらか振り込まれて、その理由がわからない時に使います。現金と同様に当座預金も、実際の通帳の残高と当座預金の勘定残高を合わせなくてはいけません。預金が増えたけど、理由が分からないからといって、仕訳を切らないと当座預金の勘定元帳の残高はどんどん意味不明になって行きます。通帳と一致しない残高を貸借対照表の預金の欄に書いて何の意味があるのか考えてみて下さい。そこで、相手勘定はよく分からないけので仮受金という勘定科目を使って当座預金の残高を合わせるのです。なお、なんだかよく分からないけど減っている場合は仮払金を使います。ただし、基本的に自分が小切手を振り出さない限り当座預金は減らないので、“なんだか知らないが当座預金が減っている”という状況は相当レアです。瞬間的にあったとしても調べれば分かるでしょう。また、小切手振出以外で考えられるのは口座引落ですが、その場合でもNTTとかNHKとか相手先を確認すれば中身はすぐに分かります。

現金過不足との違い

(*注 現金過不足は第12章で説明します。)ここで、なんとなく現金過不足に似ていると思った人は鋭いです。ただし、よく考えてみると違います。現金過不足は受け身の処理です。現金は、現金という目に見える物がありますから、金庫を管理している担当者が、その増減に気付かないという事態は常識的に考えてありません。一つ一つの現金の出入りをしっかり管理しているはずなのに、1日の終わりに、現金を数えてみたら、帳簿残高と合わないというケースなのです。だから、現金過不足のところでしつこく説明しますが、試験では想定できても、実務ではありえないのです。つまり、一日の終わりに帳簿残高と現金の実際有高を比べたら、なんだか知らないが合わなくて、しかも理由は後回しにする時に使う勘定です。

その点、仮払金は、その内訳が後になってみないとわからないというだけで、現金が出ていっていることは認識しています。内訳は後になるまでわからないけど、現金が減った分だけとりあえず仕訳しておこうという処理です。事後的になんだか知らないが合わないぞという話ではないのです。

仮受金にしても、通帳を見たら、理由のわからない振り込みがあったというケースです。確かにその原因がわからなくても、その取引は認識しています。現金過不足のように、なんだか知らないが一致しない、一体この差はどの取引から発生しいるのかわからない、というのとは次元が違います。理由のわからない取引自体はわかっているわけです。

つまり、仮払金も仮受金も仕訳を起こしたいのだけど、相手勘定がわからない時に使うものです。したがって、必ず理由が判明した時に、正しい勘定に振り替えなくてはいけません。その点は、現金過不足と同じです。つまり、基本的に貸借対照表や損益計算書に載せてはいけない勘定です。

仮払金と仮受金の本質

みなさんが社長や銀行の融資担当者だとします。会社の貸借対照表に仮払金があったとして、経理担当者に「この仮払金と仮受金は何ですか」と質問した時に、「お金の出入りはあったのですが、その内訳や原因がわかっていないので仮払金・仮受金で処理しています」と答えたら、怒ってよいです。「ちゃんと調べろよ」と言うべきです。決算整理仕訳の最初に説明しますが、期末日が3月31日だからと言って、3月31日に財務諸表を作成するわけではありません。4月1日以降に、決算整理仕訳を計上したり、期中の処理で間違いがないか確認したり、売掛金や買掛金の勘定残高があっているかを相手先に連絡して確認したりして、3、4週間かけて財務諸表を作るわけです。当然その中で、仮払金と仮受金の本当の勘定科目を調べる作業もしなくてはいけません。

仮に、3月27日出発4月2日戻りの出張を考えた場合、確かに3月31日時点では、その社員との出張費の精算が終わってませんから内訳はわかりません。しかし、決算が終わるころ(財務諸表ができるころ)、つまり4月末とか5月初頭にはわかっているわけです。

資産はお金もしくは将来お金になるもの、負債は将来お金が出ていくものと定義できますが、あくまでそれは貸借対照表に載せるものです。貸借対照表や損益計算書があるから、それが資産負債か費用収益かを分類する必要があるわけです。その点、仮払金と仮受金は財務諸表には載せてはいけません。財務諸表を作るまでに、その中身を調べて、正しい勘定科目で処理しなければいけません。したがって、財務諸表に出てこない以上、それは資産でも負債でも費用でも収益でもありません。ただ単に現金や当座預金の相手として一時的に使う勘定科目です。

余談になりますが、日本人は結構、仮払金や仮受金が好きです。日本企業の帳簿を見ると、たいてい仮払金と仮受金があります。そして、仮払金は資産と認識されています。その理由として、出張の時にお金を前払いしても、使わなかったら返してもらえるはずであり、つまり将来お金になるものだから資産であると説明されます。また、仮受金に関しては、当然のように負債として認識されています。当座預金が増えて理由はまだわかっていないけれども、もしそれが間違いであれば返さなくてはいけないのだから、負債であると説明されたりします。

しかし、海外進出している企業や、外資に買収された日本企業で、外国人の人から、この勘定は何かと質問されて一番と言ってもいいくらい困るのが仮払金と仮受金です。なぜかというと適切な英訳がないからです。そして、なぜ英訳がないかというと、この考え自体が海外の簿記にはないからです。もちろん、メーカー系の海外子会社などは、会社が海外にあるだけで実質は日本企業なので、Tentative payment とかTemporary receivedとかよくわからない英訳をあてて、この勘定科目が使われていますが、純粋な海外企業にはまずありません。

外資系企業では、内容が不明な仮払金と仮受金はSuspense(サスペンス)という勘定を使います。Suspenseとは宙ぶらりんという意味です。その意味から分かるように、よくわからないから使う勘定であり、財務諸表には絶対に載せません。財務諸表を作るまでに何とかしなくてはいけない勘定科目(宿題)なのです。したがって、海外の経理の人にもし、「Suspense勘定は資産ですか?」などいう質問したら、相手は質問の意味を理解できずに相当困惑するはずです。ただ単に一時的にSuspenseとして処理しているだけであり、財務諸表に載せないものに資産も負債もないからです。

また、出張費の概算前払は、前払金で処理します。仮に払ったとか、精算するまで分からないとかではなくて、正当な手続きに基づいて前払したのだから、前払金なのです。入金があったが内容がまだ分かっていないので、仮受金(Temporary received)というのはまだ説明すれば理解してもらえるでしょうが、「中身はよく分からないけどとりあえず払ったものです」なんて説明を外国人上司にしたら、とっとと中身を調べろと言われるでしょう。したがって、ある目的があって、正しい手続きを経て払ったものは前払金で処理するのが本当は正しいです。簿記検定上、出張費の概算前払は仮払金ですが、実務上前払金にして何の問題もありません。

長々といらぬことを説明してきたように感じていますが、その心は伝わったでしょうか。私が強調したいのは実務の感覚です。これが、簿記の検定向けに勉強しているとかえって後退する場合があるのです。

実務で、みなさんが財務諸表を作っているとします。そして、仮払金や仮受金が出てきました。その時に考えなくてはいけないのは、それが資産負債か、貸借対照表のどっちに記載するべきかではなくて、こんな勘定は報告してはいけないという点です。そんなものが、決算中の後半になっても残っていたら、内容を把握しなくてはいけません。仮払金とか仮受金とか名付けると、意味ありげな名前であり見落としがちですが、その本質はSuspense(宙ぶらりん)であり、出張費の前払であれば日本の簿記ルールで許されているのでしょうがないですが、よく分からないので仮受金なんてものは決算で残ってはいけないのです。そこを強調したくて、長々と説明した次第です。

簿記を勉強する人の中で、経理部等で財務諸表を作成するために学ぶ人は結構多いと思いますが、簿記の究極的な目標は報告であり、会社の状況を伝えることです。財務諸表を作成することは会社の状況をつかむための手段であり、それ自体が目的になってはいけません。見る側の立場を常に意識してください。

もしみなさんが財務諸表を見る時、なにを重視しますか?確かに貸借対照表の純資産や損益計算書の利益の金額は重要です。取引したい会社や融資したい会社が赤字か黒字か、純資産が十分にあるか、債務超過ではないか、という点は超重要です。しかし、財務諸表は人によって作られているという点を忘れてはいけません。損益計算書の利益の金額を重視するのも、損益計算書が正しく作られているという前提があってのことです。経理部がいい加減で信用できないことがわかっている場合、損益計算書を分析する気になりますか?そもそも見る気が起きないはずです。そんな人たちにわが社は黒字ですと言われても、はいそうですかと言うわけにはいきません。

そこで、貸借対照表で言えば仮払金と仮受金、損益計算書で言えば雑損(雑費ではない)と雑益が重要になってきます。これらの金額が異常に大きい、若しくは、作成者がきっちり説明できない会社は基本的に信用してはいけません。宙ぶらりん勘定を放置している、若しくは、その理由がわからないのに調べるのをあきらめて雑損・雑益で処理している会社なんて言うのは信用できないのです。

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なお、日本では税金関係の処理で仮払金・仮受金を使うのでそれが原因で金額が多額になるのは全然おかしくないです。ちゃんと中身を質問する必要があります。ただし、主に税金ですという回答が返ってくれば、すかさず残りは何ですかと聞くべきです。

なお、内訳の説明を受けた時に、それは仮払金ではなくて前払金で処理する方が正しいと感じました。その場合どうしますか?そういう時に、「それは仮払金ではなくて前払金ではないですか」という質問は一番いけません。実務上はっきり言ってどうでもいいからです。実務の会議で簿記理論に基づいて相手の作成した財務諸表を添削してもしょうがないわけです。仮払金でなく固定資産だとか、仮払金ではなく費用だというなら話は別ですが、前払金か仮払金かというのは大した話ではないです。くどいですが、中身がよくわからないので仮払金にしているというのがだめなのです。その会社の財務諸表は信用できないと思った方が良いです。ただし、前払金にすべきものが仮払金に溶けていても、実務上は何にも問題ないといって大丈夫でしょう。内容が分からないのを放置していることがいけないのであって、勘定科目の選択ミスは費用と資産、収益と負債を間違えていない限りそんな大事ではありません。

以上、実務の観点からかなり熱く説明しましたが、試験対策も重要なので、外資系企業ではどうするといった余談は置いておいて、試験に出る仕訳を見ていきましょう。以下では、180度方針転換して試験専用の説明になります。

仮払金と仮受金の処理

例1 社員が出張するので、出張費用の概算額5,000円を現金で渡した。

7-5-1

まず、現金5,000円が金庫から出ていっていますから貸方の現金5,000円は絶対です。そして、借方ですが、“出張費(費用)”や“交通費”(費用)としてしまいたいところですが、それはいけません。なぜかというと、渡しているのは概算金額であり、使わなかった分は当然戻ってきます。したがって、社員が出張から戻ってきて、精算するまでは中身はわかりません。そこで、借方は仮払金として一時的に処理します。仮払金は簿記検定上は一応資産とされています。

例2 例1の後、社員が出張から戻ってきて精算をしたところ、交通費4,000円と交際費3,000円を支払ったとの事だったので、現金で2,000円を渡した。

7-5-2

この仕訳は少し難しいですかね。しかし、全然難しくありません。まず、貸方ですが、現金2,000円渡してますから、貸方の現金2,000円は絶対です。また、仮払金の5,000円も絶対です。なぜかというと、仮払金というのは一時的な勘定であり、精算したら絶対に残してはいけないからです。したがって、貸方の仮払金5,000円も絶対です。仮払金の残高がゼロにならなくては精算ではありません。では、借方は何でしょうか?当然交通費4,000円と交際費3,000円です。そして、仕訳の貸借の金額は当然に一致します。

例3 例1の後、社員が出張から戻ってきて精算をしたところ、交通費2,000円と交際費2,000円を支払ったとの事だったので、余った1000円を現金で受け取った。

7-5-3

これも簡単です。まず、貸方は絶対に仮払金5,000円です。これがゼロにならなくては精算とは言えません。また、現金1,000円を受け取っていますから借方の現金1000円も絶対です。そして、借方に交通費2000円と交際費2000円を計上すると、仕訳の貸借はぴったりと一致します。

続いて仮受金の処理を見ていきましょう。

例4 当座預金に1,000円の振り込みがあったが、その内訳は不明であった。

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これは、通帳をチェックしていたら、理由のわからない入金があったというケースです。ここで、実務であれば、振り込んだ人に速攻で連絡して、何の入金か確かめるわけですが、簿記検定ではなぜか仕訳します。もちろん、相手にすぐに連絡がつくとも限らないし、よくわからないまま仕訳すること自体は会社の自由なので、別に間違っているわけではありません。さて、まず、当座預金が増えている以上、借方の当座預金1,000円は絶対です。そして、貸方、つまり当座預金が増えた理由ですが、それが不明なので一時的に仮受金として処理します。

例5 例1の1,000円の入金が売掛金の回収であることが判明した。

7-5-5

まず、貸方の売掛金1,000円は絶対です。売掛金の回収であったことが判明したということは、売掛金という権利が実際にはなくなっていたのに、それを仕訳していないことがわかったわけですから、貸方に売掛金(資産の減少)です。そして、不明な入金の理由が判明したわけですから、一時的な勘定である仮受金残高(貸方残高)を減らしてあげる(借方に計上)必要があります。

例6 5,000円の売掛金のある得意先から、7,000円が当座預金に振り込まれた。担当者に連絡を試みたが、連絡がつかなかった。

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まず、当座預金が増えている以上、借方は当座預金7,000円です。そして、貸方ですが、売掛金にはしません。中身は不明だからです。もちろん、7,000円の内5,000円は売掛金の回収である可能性が高いし、不明なのは2,000円であるとして、下記の仕訳を切りたいのは理解できます。

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この仕訳が間違っているかというと微妙ですが、実務では多くの人がダメと言うでしょう(もちろん良いという人もいます)。なぜかと言えば、やはり不明な入金7,000円があったという事実に対応する仕訳は仮受金7,000円とすべきと思うからです。相手先に電話して確認する時も、2,000円の入金は何ですかとは聞かないでしょう。

例7 例3の後、相手先の担当者と話したところ、5,000円のところ間違えて7,000円振り込んでしまったということなので、2,000円を小切手で返した。

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まず、2,000円の小切手を振り出してますから、貸方の当座預金2,000円は絶対です。そして、売掛金5,000円の回収も判明したわけですから、貸方に売掛金5,000円です。そして、相手先と話して、内容が不明であった7,000円が解決したわけですから、借方に仮受金7,000円として、例3で貸方に計上した仮受金を消してあげます。

以上が、仮払金と仮受金の処理でした。暴走気味に熱く語った前半は忘れても、仕訳だけはしっかりと理解して下さい。

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