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7-9. 引出金

本節では引出金の処理を説明します。この論点は非常に簡単なのですが、その分試験で聞かれる時は結構問題が意地悪だったりします。油断しないで下さい。

引出金とは

これは簿記3級ならではの論点である意味恐ろしい論点です。店のお金や物を店主が個人的に利用した時に使用する勘定です。

第1章で説明したように、会社にしろ個人商店にしろ、会社もしくは店の財布にお金を入れるところから全てが始まります。この点会社は法人つまり法律上は株主とは別人ですから、「出資金返してもらうよ」なんて言いながら、株主が会社の財布から金を抜き取ったり、会社の資産を持って帰ったらそれは窃盗です。株主は会社(法人)を設立するために出資金を払ったわけですから、それを返してもらえるのは、会社(法人)が清算して消滅する時が原則です。しかし、簿記3級で登場する個人商店というのは、会社(法人)になっていない場合を想定しているため、店主が財布から金を抜いたり、店の物を自分で消費したりするという事例が出てきます。

皆さんは「マルサの女」という映画を見たことありますか。故伊丹十三監督の税務調査をテーマにした非常におもしろい映画なのですが(見てない人は是非見て下さい)、その冒頭で女優の宮本信子さん演じる調査官が一般庶民をいじめるシーンが出てきます。中年夫婦が経営する総菜屋さんの税務調査のシーンなのですが、調査官が、店主夫婦が時々余った総菜を自分達で食べていることを確認します。すると店主は、自分で作った物を自分で食べて何が悪いんだと言います。しかし、調査官はこう切り返します。でもお宅のお店は法人ですよねと。つまり、店を会社にして法人にしている以上、そこに並んだ総菜は会社(法人)のものであり、それをとって食べたのであれば、店の帳簿では売上計上しろと言うのです。当然その分だけ利益も増えますので、税金も増えます。これが店を会社(法人)にするということです。映画では庶民をいじめるシーンとして、むちゃくちゃなことを言う税務調査官のような描かれ方をしていますが、簿記を学んでいる皆さんには、なるほどと感心して欲しいものです。しかし、簿記3級の前提とする個人商店では、法人になっていないので、店主と店の区分は曖昧であり、店のものを店主が私消(個人的に消費すること)は可能となっています。

簿記の説明という観点から、お金を元入れして商売を始めたなんて、商店が自らの財布を持つところから説明をしている割に、実際のところ個人商店では、その財布は店主個人の財布と区別がなかったりするわけです。ちなみにこの論点以外、個人商店と会社の違いを意識する必要は一切ありません。簿記3級の対象は個人商店だと言われますが、この引出金さえ除けば、普通の株式会社と思って良いでしょう。もちろん、2級や1級で習うために範囲外とされている論点はたくさんあるので、株式会社の全ての活動をカバーしているわけではありません。

ここで、店の財布にお金を入れた時の仕訳はもちろん大丈夫ですね。借方現金/貸方資本金です。したがって、店から金を取った場合の仕訳は借方資本金/貸方現金です。これが原則なのですが、引出金という勘定を使う方法があります。これはただ単に資本金の代わりに引出金勘定を使うだけです。そして、決算日になったらまとめて資本金に振り替えます。この方法に何の意味があるのか私はよく分からないので、説明しません。とても意味がある処理だとは思えません。簿記検定の受験上、とりあえず2通りの方法があるとだけ覚えて下さい。

では実際に仕訳を見ていきましょう。

資本金で処理する場合

例1 店主個人の所得税10,000円を現金で払った。

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これは店主が自分の所得税を店のお金で払ったというケースです。店の財布にお金を元入れした以上は、店の財布の中のお金は店のお金であって、店主のお金ではありません。したがって、簿記上はいったん店の財布から店主が金を返してもらい、その金で店主が所得税を払ったと考えるわけです。もっとも、簿記上は店の仕訳が問われているわけで、仕訳するのは店主にお金を返すところまでです。店主に返した後、それを店主が何に使おうと関係ありません。したがって、元入れの逆で資本金を減らして、店が店主にお金を渡す仕訳が正解となります。

例2 例1の所得税を店主が店に現金で返金した。

7-9-2

これは、店主が店に返金したというとややこしいですが、もう一回元入れしただけです。

例3 店主が店の現金4,000円と備品2,000円を私消した。

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私消したとは、店主が個人のために消費したと言うことです。これは、店から現金4,000円と備品2,000円がなくなっていますから貸方は絶対です。問題は借方ですが、これは資本金です。そう覚えて下さい。

引出金で処理する場合

例4 店主個人の所得税10,000円を現金で払った。

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例1の資本金が単に引出金になっただけです。

例5 例4の所得税を店主が店に現金で返金した。

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これも例2の資本金が引出金になっただけです。

例6 店主が店の現金4,000円と備品2,000円を私消した。

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これも例3の資本金が引出金になっただけです。

以上が基本パターンですが、冒頭で説明したように、簡単な論点だけに試験で出る時は結構ひねってきます。いくつか見てみましょう。最初は難しいと思うかも知れませんが、あまりびびらないで下さい。この論点の問題は結構特殊です。

例7 店主が店の商品2,000円を私消した。なお、当店は商品売買に関して三分法で記帳している。また、引出金勘定を使うものとする。

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これは、仕訳だけ見ても一瞬意味が分からないかも知れません。しかし、中身は簡単です。本当は下記のような仕訳を切りたいのです。

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上の仕訳はわかりやすいと思います。備品や現金を私消したのと同じように商品を私消しただけです。しかし、問題文にあるようにこの店は三分法を使用しているので期中で商品勘定を使いません。その代わりに仕入勘定を使うのが三分法です。したがって、貸方は商品ではなくて仕入にするのです。仕入勘定は費用勘定ですが、あくまで商品の代わりに使っているだけで、その裏側には商品という資産があることを忘れないで下さい。

例8 家賃3,000円を小切手で払った。しかし、家賃の60%は店主個人の住居部分に対応するものである。

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まず、小切手3,000円を振り出してますから貸方当座預金3,000円は絶対です。そこで、問題は借方です。結論から言うと、この店の損益計算書に計上すべき支払家賃はいくらになるべきかと考えて下さい。3,000円の内、60%は店主の住居にかかる家賃ですから、それは店主の損益計算書に載せるべきものであって、店の損益計算書に載せてはいけません。したがって、借方の支払家賃は40%、つまり1,200円です。そして、60%は店のお金を店主が私消したわけですから、引出金で処理します。小切手は3,000円の一枚なので、わかりにくいかも知れませんが、当座預金は合計で3,000円減っていますが、そのうちの1,800円は店主が店の財布から自分のために持ち出したのと同じことです。

例9 従業員からの所得税の源泉徴収額1,400円と店主の所得税1,600円を現金で納付した。

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これはいやな問題ですね。まず、源泉徴収の納付の仕訳が思いつかないと話になりません。源泉徴収は会社が従業員から預かったお金です。源泉徴収は会社の義務であって、引出金勘定とは無縁です。何となく、従業員の所得税とか聞くと会社とは関係ないと思ってしまうかも知れないですが、従業員に給料を払う時に所得税を源泉徴収して(預り金計上)、それを税務署に納める(預り金納付)のは法律によって義務づけられた会社の取引です。会社が預かった以上、会社が納付するのは当然です。したがって、この取引は一切引出金勘定と関係がありません。ただし、店主の所得税は店とは全く関係のない店主個人の取引であり、店がお金を払ういわれは全くないので、店主が店から金をお持ち出した(元入れの逆)と考えます。したがって、引出金勘定で処理してあげる必要があります。

以上が引出金です。慣れると特に難しいところはないと思いますが、所得税のところだけ注意して下さい。租税公課とやったりしないように。租税公課とは会社の費用であり、所得税は店主の税金(費用)ですから、店主が所得税を払うために店の財布からお金を抜いたとしても、それは店主への元入れ金の払い戻しです。

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